なりた・わたる
医学博士。2003年、自治医科大学卒業。脊椎外科手術の新術式の開発に尽力。16年、自ら開発した手術機器により博士号取得。17年、VR脊椎治療を開始。18年、亀岡市立病院脊椎センター立ち上げ。同年より現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医、最小侵襲脊椎治療学会(MIST学会)理事・評議員、日本脊椎脊髄病学会広報委員、日本インストゥルメンテーション学会広報委員、関西MISt研究会世話人、日本CAOS研究会世話人
京都府の中西部に位置する亀岡市。人口約9万人の地域医療を支える亀岡市立病院の脊椎センターでは、最新医療技術を取り入れた高度な脊椎外科手術が行われている。今回、同センター立ち上げに携わり、亀岡市を拠点に各地で手術指導・技術開発を行なっている脊椎センター長の成田渉医師に話を伺った。
高度な脊椎外科手術を地域に
日本の医療技術向上にも尽力
https://www.city.kameoka.kyoto.jp/site/hospital/4487.html
(亀岡市立病院Webサイト内)
 2018年、亀岡市立病院で脊椎センター立ち上げに伴い、白羽の矢が立ったのが成田医師だ。成田医師は大学卒業後、僻地医療に従事する傍ら、IT技術を応用した新しい術式・手術器具の開発に尽力している。また、2017年に日本初となるVR(バーチャル・リアリティ)を用いた脊椎治療をベンチャー企業と共同で開発し、臨床応用を開始している。一般的に、公立病院に在籍しながら、企業と共に技術開発を行うのは困難とされている。そのため成田医師が取ったのが安定した公務員というポジションを捨て、フリーランス外科医になるという選択肢だ。現在、亀岡市を拠点とし、各地で手術指導・医療機器開発やコンサルティングを行なうなど、医師免許を持ちながら、幅広い知識と高い工業技術力を併せ持つというハイブリッドな才能を遺憾なく発揮している。
 亀岡市は京都府内最大の農地を有し、京都府3位の人口を誇る地域だが、一方で医療環境の問題も指摘されている。「地域柄、脊椎疾患を患っている患者さまが多くいます。しかし脊椎手術は、手術のリスクや難易度が高いため、対応できる医師が非常に少ないというジレンマを抱えてきました。この問題に対する解消の糸口となったのが、当センター設立です」と成田医師は語る。積極的に高度な脊椎外科手術に取り組み続けてきた結果、現在では地域住民のみならず遠方からも患者が多く来院しているという。2021年には年間330件※もの脊椎外科手術が行われており、同センターを一人で舵取りしている成田医師に必ず診てもらえるという安心感が、受診の後押しともなっている。
早期社会復帰を実現した
高度な最小侵襲脊椎治療
最新の医療技術と高度な最小脊椎治療
 同院では、低侵襲に脊椎を治療する術式である、MIST(ミスト=最小侵襲脊椎治療)に力を入れている。顕微鏡や内視鏡を用いて小さな切開・少ない出血・短い手術時間を実現し、合併症のリスク低減も期待できるのが大きな利点だ。また、手術翌日には歩行練習を開始し、1週間ほどで退院することが可能で、9割以上の症例において外来でのリハビリの必要もないという。
 「同院では、切開3㎝・出血30㏄・手術時間30分を目指し、身体へ負担の少ないMISTを行っております。悪化して、重大な麻痺や歩行困難、膀胱直腸障害などの症状が現れると、手術しても回復が困難となるため、早期発見・早期治療が重要です」と成田医師は警鐘を鳴らす。
 手術は、腰部脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症などの腰椎変性疾患、頚椎症、さらには脊椎圧迫骨折や脊椎破裂骨折などの外傷が対象となる。近年増加しているのが、首、腰、手足の広範囲にわたり、痛みや痺れ、脱力感、麻痺などの症状が出る頚椎症だ。
 「長年のレース活動で酷使された頚椎による慢性的な痛み・痺れに悩まされ続けたレーシングドライバーの方が、意を決し顕微鏡下頚椎手術を受けられた後、症状が完治して翌月の耐久レースで活躍できたという例もあります。患者さまの生活環境や痛みの状態を把握し、できる限り早期社会復帰を目指しています」と語る成田医師。
日本発の技術を世界へ!
IT技術を応用した
3Dデータ・VR脊椎外科手術
IT技術を駆使した最新医療技術
3Dデータ・VRを用いた患者オリジナルの脊椎
 同院ではVRを用いた脊椎治療にも取り組んでいる。疾病診断用プログラムとして医療機器認証されたシステムを用いて、CT画像から作成した3DデータをVRデバイスで観察する。患者オリジナルの脊椎を立体として直感的に理解・解釈できるのが大きな特徴だ。
 現在、医師間の手術方針の正確な共有、手術前のシミュレーションに応用し、より理想に近い手技を実現しており、今後デバイスの軽量化が進めば、VR画像を見ながら手術を行うことも期待されるという。
 このプログラムは成田医師が企業と共同開発したもので、成田医師が作成したデータも内部にインストールされており全国50以上の医療施設で導入されている。これまでも手術器具に関する特許や、手術に関連するスマートフォンアプリ開発等に携わってきた成田医師は、「今後もIT技術を応用した新しい医療機器や手術技術を、できれば〝日本発の技術〟として生み出して世に広めていきたい」と今後のビジョンを語る。
改めて考える「低侵襲」の意味と
地域医療への貢献
海外有名誌の表紙に採用された手術機器
 「切開は小さいけれど5時間かかりました、では低侵襲とは言えません。また、従来の方法と同等以上の成績が期待できることも重要です。トータルで患者さまへのダメージが少なく、早く日常生活に復帰できることが前提だと私は考えます」と成田医師は語る。同院では100歳の患者の脊椎手術を行い元気に退院した例もあるという。
 先進的な視野と豊富な実績を持つ成田医師のもとには、他医療機関から多くのオファーが届く。「当院玉井院長の地域医療に対する熱意や信条に賛同し、脊椎センター開設から二人三脚で取り組み、現在の治療体制を確立してきました。困難な手術にも全面的にサポートしてくれる玉井院長と共に、これからも地域医療に貢献するため走り続けていきたいと考えております」と成田医師は熱く語った。

※2021年1月〜12月

 
 
 
 

※内容は2022年1月31日掲載時点のものです。詳しくは各医療機関にお問い合わせください

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医療機関情報
施設名 亀岡市立病院
TEL 0771-25-7313
住所 京都府亀岡市篠町篠野田1-1
公式Webサイト(別ウインドウ)

 

受付時間
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