ごみ・ふみ
1989年、大阪大学医学部卒業後、大阪大学眼科入局。90年、大阪労災病院眼科。97年、大阪大学大学院入学。2001年、同大学院修了、大阪大学眼科助手。06年、大阪大学眼科講師。12年、住友病院眼科診療部長、大阪大学医学部招へい准教授。15年、住友病院眼科診療主任部長、大阪大学医学部招へい教授。16年、兵庫医科大学眼科学講座主任教授。眼科PDT研究会世話人。日本眼科学会認定眼科専門医
70代の男性に多い加齢黄斑変性
「早い段階で見つければより治療効果が期待できるため、
早期発見・早期治療を心がけましょう」
加齢に伴って網膜の中心部である黄斑に障害が生じる加齢黄斑変性。治療では、抗VEGF療法や光線力学療法(PDT)などが行われている。日本眼科学会認定の眼科専門医が推薦する兵庫医科大学眼科主任教授の五味文医師は、病気の早期発見と早期治療の大切さを説いた。
滲出型と萎縮型がある加齢黄斑変性
 加齢黄斑(おうはん)変性は、欧米に多い病気ですが、近年、アジアでも増えています。欧米は高齢の女性に多いのですが、日本人の場合は60~70代の男性に多いのが特徴です。
 この病気は、加齢に伴い眼底の網膜の中心にある黄斑に障害が起きます。黄斑は物体を鮮明に感じることのできる部分であるため、初期はものがゆがんで見えたりします。次いで、視野の中心が暗くなったり、影がついたりします。病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、網膜下で大きな出血が起これば、見えにくい範囲はさらに広がります。
 加齢黄斑変性には、「滲出(しんしゅつ)型」と「萎縮(いしゅく)型」があります。滲出型は、日本人に多く、異常な血管である脈絡膜新生血管ができ、そこから血液成分が漏れ出たり、血管が破れたりして黄斑部の機能障害を引き起こします。萎縮型は、加齢に伴い黄斑部が萎縮し、視力が徐々に低下していきます。
 病気の診察・診断では、碁盤の格子状になったアムスラーチャートでゆがみの程度をチェックします。
 最近は、OCT(光干渉断層計)という検査機器が、的確な診断に役立っています。コンピューター解析により黄斑の腫れのある部分を判別し、眼底の状態を3次元画像で確認できます。肉眼では判別が困難な、黄斑部のわずかな滲出の有無なども、高い精度で把握することができます。
抗VEGF療法と光線力学療法(PDT)
 滲出型の治療では、目に直接注射をする抗VEGF療法を第一選択として行います。VEGFは体内の血管内皮増殖因子を指し、この働きを抑えることで新生血管の成長を抑制する効果があります。抗VEGF療法を施せば安定化しますが、再発しやすいため、最初は抗VEGF療法を1カ月に1回行い、その後、6週~数カ月に1回という具合に間隔を延ばしていきます。
 日本人で有用なのが、光に反応する光感受性物質を点滴し、それが新生血管に到達した時にレーザーを照射する光線力学療法(PDT)です。レーザーによって光感受性物質が活性化され、新生血管が収縮し、閉塞します。弱いレーザー光線のため、網膜への影響もほとんどありません。
 抗VEGF療法と光線力学療法を併用すれば、より治療の効果が期待できます。ただし、光線力学療法の場合、治療後は日光などにあたらないよう、全身を防御する必要があります。強い光にあたると光線過敏症(日光アレルギー)を起こしたりするからです。
 萎縮型の場合、残念ながら効果的な治療が難しいのが現状です。このため、生活改善やサプリメントなどで対応しています。
 黄斑疾患では、加齢黄斑変性のほかに、中心性漿液(しょうえき)性脈絡網膜症、黄斑浮腫(ふしゅ)、黄斑円孔(えんこう)や黄斑上膜などがあります。
 例えば、黄斑浮腫は40〜50代を含めた中高年の人に多い病気で、網膜静脈分枝閉塞症や糖尿病網膜症などに伴う網膜の血管閉塞から起こります。一般的な治療では、抗VEGFとステロイド(抗炎症薬)を組み合わせて行います。
 黄斑部疾患は、自覚症状は似ていますが、治療法が異なることもあり、正確な診断が必要です。
長期戦になるからこそ早めに医師の診療を受けよう
 加齢黄斑変性をはじめとする黄斑疾患は、早い段階で見つければより治療効果が期待できるため、早期発見・早期治療が大切です。気になる方は、片方ずつ目を閉じて見にくくなっていないか、視野がゆがんでいないかをチェックしてください。
 加齢黄斑変性の予防では、ストレスや目の酷使を避け、血圧の上昇や動脈硬化に気をつけることが大切です。喫煙している人は、煙草をやめることを一番に考慮しましょう。
 加齢黄斑変性の患者さんとは、長いお付き合いになる可能性があり、納得して受けていただける治療を心がけています。長期戦になるからこそ、できるだけ早めに信頼できる医師の診療を受けていただきたいと思います。

※ 2016年9月30日 掲載

 

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