なかの・まさゆき
1986年、福島県立医科大学医学部卒業。同年福島県立医科大学脳神経外科入局。98年、脳神経疾患研究所附属総合南東北病院附属福島医療クリニック。2002年、脳神経疾患研究所附属南東北福島病院。19年より現職。日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医
手のふるえで日常生活に支障が出る
「本態性振戦」
様々な職種の専門スタッフが連携してチーム医療を行う
 新百合ヶ丘総合病院は2021年に10周年目を迎える。今年4月には新棟をオープン、最新治療や最新医療機器を備えた高度急性期病院として地域の医療に貢献している。同病院にて、本態性振戦の最新治療が行えるFUS(集束超音波治療)センターを開設。全国でおよそ15施設と治療を受けられる施設が限定されているため、全国から患者が訪れているという。
 脳神経外科の中でも、脳や神経に手術等で直接手を加え、脳の活動を調整する治療を行う「機能外科」。現在、同科において、原因不明の手のふるえで日常生活に支障をきたす「本態性振戦」の治療を中心的に行っているのが仲野雅幸医師だ。
 「手のふるえには、手で何もしていない時にふるえが出る静止時振戦と、手の動作に伴ってふるえが生じる動作時振戦があります。本態性振戦は動作時に起きるもので、字を書こうとしたり、コップで水を飲もうとすると常に手がふるえてうまくできないといったことが典型的な症状です」と仲野医師は本態性振戦の症状について説明する。
超音波照射による本態性振戦の治療法
「集束超音波治療(FUS)」
 本態性振戦の発症のピークは20代と60 代の二峰性で、意外と若年層の発症者も多い。治療法には、交感神経をブロックするβブロッカー、その他の薬を用いる薬物療法と外科治療がある。本態性振戦の発症原因は不明だが、小脳に関わる疾患であることが推定されており、外科治療では頭蓋骨に小さな穴を開ける「せんとう穿頭」を行い、そこから脳の視床部に電気を流して熱凝固して破壊する治療が50年ほど前から、電極と脳刺激装置を体内に埋め込む「脳深部刺激療法」が20年ほど前から行われてきた。
 より低侵襲な外科的治療として登場し、2019年から保険適用となったのが「集束超音波治療(FUS)」と呼ばれる治療法だ。FUSは今年の9月から、パーキンソン病の一部にも保険適応となっている。
 「FUSは、MRI画像を用いて視床部にある手の震えの原因となる異常な神経活動を起こしている部分にピンスポットで超音波を照射して局部の温度を55~60度にして神経を凝固する治療法で、切開や穿頭が不要で非常に低侵襲なのが特徴です」と仲野医師は語る。
 手術は、局所麻酔ののち、ピンを用いてフレームを取り付け、固定して行われる。同院では脳神経外科、神経内科、放射線科、麻酔科(髙崎正人)の医師が連携して手術に参加しチーム医療で行う。術中に震えの軽減具合を測りながら照射を行うほか、照射時に起きる一過性の頭痛などのペインコントロールを行いながら進行させていく。手術時間は2~3時間ほどで、術中から効果が現れる。吐き気等の症状がなければすぐに通常食を摂ることも可能で、高度なふらつきなどの合併症がなければ術後2~3日ほどで退院ができるという。
治療により当たり前の日常を
取り戻して欲しい
 本態性振戦の患者は、外科治療があまり知られていなかったので、日常生活で不便を感じながらも体質だ、気持ちのせいだ、年齢のせいだと諦めている人が多かったのではと仲野医師は指摘する。
 「小学生の頃から症状があった方が、術後症状が良くなって『今までの人生はなんだったのか』と涙を流されたことがありました。本態性振戦はATMやスマホ、パソコンのキーがうまく打てないなど、日常生活の端々に支障が出る疾患ですが、症状を軽減する治療法が確立されています。特にFUSは低侵襲で体への負担も軽いので、積極的に治療を受けて欲しいですね」と仲野医師は手の震えに悩む多くの人々へやさしい笑顔で語ってくれた。

 

※内容は2020年11月26日掲載時点のものです。詳しくは各医療機関にお問い合わせください

 

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医療機関情報
施設名 新百合ヶ丘総合病院
TEL 0800-800-6456
住所 神奈川県川崎市麻生区古沢都古255
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