ひさとめ・たかし
1991年、広島大学医学部卒業。2012年、中国労災病院人工関節センターを経て、2018年より現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医
術後の股関節の脱臼を抑制できる
仰臥位前外進入法(ALS)
傷口の小さい低侵襲にて筋肉の切らない手術を行う
 都営三田線・志村坂上駅すぐの場所にあり、総合病院として地域医療を支えている板橋中央総合病院。同院で整形外科診療部長として、人工股関節置換術を担当しているのが久留隆史医師だ。
 人工股関節置換術の術式には、大きく分けて股関節に対してお腹側、つまり前からアプローチする前方系と、股関節に対して後方のお尻側からアプローチする後方系の2種類がある。このうち後方系が一般的に行われており、筋肉を大きく切ってそこから人工関節を設置する。しかし筋肉は一度切断してしまうと、その後縫合しても筋力が衰えて関節の動きを制御する力が弱まり、結果として股関節脱臼を起こしやすくなるというデメリットがあった。
 これを防ぐためにヨーロッパを中心に2004年頃から始まったのが、股関節に対して前方からアプローチする仰臥位(ぎょうがい)前外進入法(ALS)だ。仰向けの姿勢の患者に対し、腰側面から筋肉の奥にある中殿筋と、股関節の屈曲、膝関節の伸展を行う大腿筋膜張筋の間からアプローチを行い、筋肉を切らないのが特徴だ。
術後の運動制限がなく
バレエや登山に復帰した患者も
高度な医療技術による仰臥位人工股関節置換術
 2010年よりALSの一種である仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)を導入している。「2010年4月からALSによる筋肉完全温存法術を開始し、2016年にはそれをさらに進化させ、関節を包む関節包も切らずに残す術式で人工股関節置換術を行っています。2010年からの手術実績は670例※ですが、現在まで脱臼はゼロです」と久留医師はその効果を語る。
 また同院の特徴として、輸血による感染症リスクを無くすため、無輸血手術を行っている。筋肉・腱を切らない低侵襲な手術手技の確立と手術時間の短縮により、可能だという。
 筋肉を切らずに温存できれば脱臼のリスクが減らせるだけではなく、術後の痛みが軽減され、回復も早い。同院では術後10日前後で退院しているといい、さらに筋肉温存により脱臼のリスクが低いため術後の運動制限がなく、同院で手術を受けた患者の中には、術後バレエや登山を楽しんでいる人もいるという。
人工股関節置換術は
「手術したことを忘れてしまう手術」
 患者にとってメリットの多いALS式の人工股関節置換術だが、筋肉を切らず、最小侵襲でアプローチするなど執刀医には解剖学的な知識や豊富な経験が求められるため普及率はまだ低く、人工股関節置換術全体の15%程度にとどまっている。そのため最近はインターネット等を通じて知識を得た患者が、関東近郊のみならず、九州や大阪などからも来院しているという。
 「人工股関節置換術は、別名『Forgotten joint』と呼ばれるほど、術後は痛みから解放され、さらには手術をしたことを忘れて暮らせるほど、股関節が悪くなる以前の生活を取り戻せる手術と言われています。ALSの場合は術後の動作制限もないので、なおさらです。股関節に痛みがある人は我慢せず、一度専門の医療機関を受診されることを強くお勧めしたいですね」と、久留医師は最後に股関節の痛みに悩む人々にアドバイスを送ってくれた。

※2010年4月〜2020年10月


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※内容は2020年11月26日掲載時点のものです。詳しくは各医療機関にお問い合わせください

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医療機関情報
施設名 板橋中央総合病院
TEL 03-3967-1181
住所 東京都板橋区小豆沢2-12-7
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