むらかみ・まさお
1982年、神戸大学医学部卒業。同年、放射線科入局。83年、川崎医科大学放射線治療部門研修医。87年、天理よろづ相談所病院放射線科副部長。99年、兵庫県立粒子線医療センター院長。2012年、獨協医科大学医学部教授、病院放射線治療センター長。17年より現職。
日本医学放射線学会認定放射線科専門医
「切らずに治すがん治療」の、まさに切り札的存在である陽子線治療。その陽子線治療で長年活躍しているのが、2017年より「南東北がん陽子線治療センター」でセンター長を務めている村上昌雄医師だ。今回は特に機能温存が求められる頭頸部腫瘍などを中心に、外科的手術や抗がん剤治療と組み合わせた独自の治療を実践する村上医師に、陽子線治療や同センターの特徴についてお話をうかがった。
陽子線で入院不要のがん治療に取り組む

 
 陽子線は、水素の原子核である「陽子」を光速近くまで加速させてエネルギーを高めることで生成される放射線の一種だ。陽子線には、「設定した深さに到達したときに最大のエネルギーを放出して停止する」という物理的特性(ブラッグピーク)がある。そのため病巣に対して照射すると、病巣にあたった時に最大の効果を発揮し、それ以上は進行しないため、ピンポイントで病巣の組織だけを破壊し、正常な組織の破壊を最低限に抑制できる。陽子線治療はこうした陽子線の特性を活用したもので、陽子線を体外から患部(がん)に照射して治療を行う放射線治療の一種だ。
 「当センターが開設されたのは2008年10月ですが、2021年4月時点で5915名の患者さまに治療を実施しています。症例としては頭頸部がん、前立腺がんが全体の40%を占め、その他に肺、肝胆管、食道、膵がん、そして骨軟部腫瘍などに対応しています。福島県の方が全体の37%を占めますが、県外、そして海外からも来院されています」と、村上医師は現状を説明する。
 同センターの陽子線治療は、最短8回、一番多くて38回で、治療が始まると週に5回でおよそ4週間かかるが、実際に治療に要する時間はわずか15分程度だという。そのため陽子線治療は通院治療が可能であり、特に働き盛りの患者にとっては、身体だけでなく、時間的負担の軽減効果もある。
切らないがん治療で患者のQOLを守る
 同センターで適用が多い頭頸部がんの場合、例えば舌がんや咽頭がんなどは仮に外科的治療で救命できても、舌の一部や声を失うことでその後著しくQOL(日常生活の質)が低下することは避けられない。
 そこで当センターでは、ステージ1、2のがんだけではなく、既に外科的アプローチが困難なステージ3以降のがんや、局所進行がん、そして放射線による再治療が難しいとされる放射線治療後の再発がんに対しても、陽子線治療で切らずに根治を目指す治療を提供している。
 「当センターは、グループの中核である総合南東北病院と一体となっており、そのため外科をはじめとした各診療科の専門医と協力しながら治療を実践できます」と、村上医師は同センターならでは治療法の強みを強調する。
他科の専門医との連携でがんの根治を目指す
 同センターを代表する2つの治療法に、「スペーサー治療」と、動注​化学療法と陽子線を併用した治療がある。
 スペーサー治療とは、放射線が当たると潰瘍化する恐れがある消化管に隣接する部位にあるため、十分な線量の照射が難しいとされる、膀胱がんのような腹部・骨盤領域にあるがんに対し、事前に外科で「スペーサー」といわれる医療材料や、胃の下側からエプロン状に腸の前に垂れ下がっている半透明の脂肪性の組織(大網膜)を使って腫瘍と消化管の間に入れ、消化管への照射を遮断しつつ、腫瘍に対してピンポイントで陽子線を照射する治療だ。
 そして国内ではまだ実践している医療機関が少ない、動注​化学療法と陽子線治療の併用治療は、腫瘍に栄養を送る動脈にカテーテルで直接抗がん剤を注入し、さらに陽子線治療を行う治療法だ。
 「点滴による抗がん剤投与と比較すると、腫瘍だけにピンポイントで作用するため、通常より数十倍の濃度の抗がん剤を投与できるので、その分陽子線の照射量も下げられ非常に効果的な治療法です」と、村上医師は語る。
陽子線治療の普及が私の使命
 抗がん剤治療や外科的アプローチと比較すると、陽子線治療の存在を知らない患者はまだまだ多い。しかしそれはあまりにもったいないと、村上医師は語気を強める。
 「陽子線治療に加え、さまざまな併用治療が行える当センターでは、動注​化学療法併用で陽子線治療をすることで、ステージ3、4の舌がんを切除することなく回復させた事例もあります。現在は、福島県立医科大学附属病院の小児腫瘍科と連携し、小児に対する陽子線治療も積極的に行っています。小児は放射線感受性が高く、放射線治療による長期的な合併症を生じるリスクが高いため、被曝量の少ない陽子線治療を適用することがより有効です。こうした陽子線治療の有効性をより広めていくことが、これからの私の使命だと考えています」と最後に力強く、やさしい笑顔で語ってくれた。

 
 
 

※内容は2021年7月28日掲載時点のものです。詳しくは各医療機関にお問い合わせください

(PR)
医療機関情報
施設名 南東北がん陽子線治療センター
TEL 024-934-3888
住所 福島県郡山市八山田7-172
公式Webサイト(別ウインドウ)

 

受付時間
8:30〜17:00(完全予約制)

【休診日】日、祝、年末年始

 
 
※外来診察は当グループの東京クリニックでも可能です。

医療機関情報
施設名 医療法人財団健貢会 東京クリニック
TEL 03-3516-7151
住所 東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル1階
受付時間 9:00〜12:00/13:30〜16:30
休診日 日、祝、年末年始
公式Webサイト(別ウインドウ)

 

患者・家族用宿泊施設 絆ガーデン

「絆ガーデン」は、患者さんやそのご家族が利用できる宿泊施設です。
当センターと隣接しているので、遠方からの通院に不安のある患者さんや、付き添いのご家族にも安心してご利用いただけます。
自家源泉から湧出する南東北温泉が自慢です。また、1階には本格レストラン『ボンジュール』も営業しています。

施設情報
施設名 絆ガーデン

TEL 024-934-5335
住所 福島県郡山市八山田7-10(南東北BNCT 研究センター内)
受付時間 月〜土 9:00〜16:30(日曜祝日、年末年始を除く)
公式Webサイト(別ウインドウ)

シングルルーム 1泊 素泊り 3,300円(税込)
※諸般の事情により料金が変わる場合がございます。※入院施設ではありません。

チェックイン:15:00〜20:00   チェックアウト:11:00